人的資本開示とは?具体的な内容や動向、開示のポイント、進め方を解説

人的資本開示

「人的資本開示とは、なんだろう?」
「人的資本開示を進めるうえでのポイントはなんだろう」

このような疑問はありませんか?

「人的資本開示」とは、これまでの企業の評価内容に「人的資本」を加味し、投資判断に活かそうというものです。

昨今、昨今、日本の株式市場で聞かれるようになり、重要度は増しております。

そこで、本記事では、人的資本開示を求められる理由や背景、国内の動向、具体的な内容と開示のポイントをご紹介します

これから人的資本開示への対応を検討されている方は、ぜひ参考にしてください。

1.人的資本開示とは

「人的資本開示」とは、経営者や投資家、社員をはじめとするステークホルダー間での相互理解を深めるべく、人的資本を可視化するための情報開示を行うものです。

「人的資本」とは、人材も物的資本と同様に適切な投資で価値が高まる存在であると捉える考え方です。

以前までは、「人=資源」と考えられており、社員一人ひとりの給与をはじめスキルアップのための研修費用などは「消費されるコスト」として考えられてきました。

それが、国際的な競争社会において、その優位性と企業価値を高めるためにもっとも重要なものは「人材」であるという考え方のもと、前述の人材に掛かる費用を「投資」と考えるようになりました。

つまり、人材に投資した分知識や能力が高まり、それが企業の推進力となって成長・収益力向上に繋がるというのが、「人的資本」の考え方です。

そして、人的資本は「サスティナビリティ経営」の重要要素であり、人材戦略に関する情報開示は、企業を評価する立場である投資家たちから期待され、求められています。

「人的資本経営」については、こちらの記事もご覧ください。

人的資本経営とは?その重要性や背景、取り組み方まで詳しく解説

2023.06.21

2.人的資本開示が求められている理由

それではなぜ、人的資本開示が求められているのでしょうか。

理由として、大きく3つあります。

(1)ESG投資への関心の高まり

ESGとは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字をとった言葉です。

この3つは「非財務情報」と言われ、投資家が投資先の選定材料のひとつとしています。

これまで投資家は、キャッシュフローや収益率、事業成長性など定量的な「財務情報」を基準として投資を行ってきました。

しかし、2006年に国連事務総長であるコフィ・アナン氏が金融業界に対し、”投資の際の意思決定にESG課題を組み込むこと”とした「責任投資原則」を提唱しました。

その結果、「長期的な企業の成長には人的資本が重要である」という考えが高まり、投資においてESGも重要な判断材料として加えられることになりました。

特に世界経済的には人権問題、労働問題、男女雇用など、人に関わる様々な問題が企業を取り巻いています。

労働力と企業の成長性が両輪である以上、人的資本の情報開示は避けられないといっても過言ではありません。

(2)欧米では既に義務化されている

欧米では既に人的資本開示は義務化されており、国際的に注目が高まっています。

欧州では2014年より、”非財務情報開示指令”により「社会と従業員」を含む情報開示を義務化し、米国では2020年に、上場企業に対し、人的資本に関する8項目を指定し、情報開示を義務化しました。

欧米は環境問題やサスティナビリティ、ESG投資に関する関心が日本よりも非常に高く、その流れで人的資本開示も進められてきました。

この国際的な流れは、当然影響も大きく、日本における人的資本開示も早急に進められることとなりました。

3.人的資本開示の動向

それでは日本における人的資本開示の動向はどうなっているのでしょうか。

以下にご説明します。

(1)人材版伊藤レポートの公開

「人材版伊藤レポート」とは、一橋大学CFO教育研究センター長・伊藤邦雄氏が座長を務める経済産業省主催の「持続的な企業価値向上と人的資本に関する研究会」によって、2020年9月に発表された報告書のことです。

人的資本経営において、人材戦略の策定・実践について提言されています。

2022年5月には「人材版伊藤レポート2.0」が発表され、コロナ禍における働き方・意識の変化やDX化の推進等、大きく変化している経営環境と人材の戦略をいかにして連動させていくかを、さらに一歩踏み込んだ内容にアップデートしています。

「人材版伊藤レポート2.0」については、こちらで詳しく解説しています。

「人材版伊藤レポート2.0」とは?要約および概要、本レポートを効率的に読む方法を紹介

2023.06.21

(2)人的資本可視化指針の公表

2022年8月には内閣官房の非財務情報可視化研究会により、「人的資本可視化指針」が公表されました。

こちらは人的資本の情報開示におけるガイドラインとして、ルールの策定や指針について触れられており、国内外の開示基準なども掲載されていることから、より具体的に人的資本開示について把握することができます。

特に本指針では、開示事項として7分野19項目が記載されていますので、後ほど詳しくご説明します。

(3)ISO30414認証

「ISO30414認証」とは、2018年に国際標準化機構(ISO)が発表した、人的資本情報開示におけるガイドラインです。

人的資本経営における企業の透明化を目指し、社内外のステークホルダーへ向けて人的資本の情報開示についての指針を示しています。

ISOとは商取引に関するルールの国際的な標準化・規格化を進めている機関であり、人的資本の情報開示に関する注目度は世界的にも高まりました。

ISO30414認証を取得することで、国外企業との取り引きもスムーズに進むなどのメリットも考えられます。

「ISO30414認証」の詳しい内容は、こちらの記事を参考にしてください。

ISO30414とは?11領域と58項目、企業で導入するメリットや目的を解説

2023.06.20

4.人的資本開示の義務化時期と対象企業

人的資本開示の義務化は既に始まっており、2023年3月期決算の「有価証券報告書」を発行する約4,000社の上場企業が対象となっています。

サスティナビリティ情報の記載欄が追加され、人的資本の観点から、人材育成や労働環境に関する方針や目標などの記載が義務化されます。

また、「女性管理職比率」などのデータも開示する必要があるため、様々な準備が必要となってきます。

5.人的資本開示が求められる7分野19項目

先ほどご紹介した「人的資本可視化指針」では、人的資本において開示することが望ましい7分野19項目を定めています。

これは、投資家から評価を得るための「価値向上」の観点と、ネガティブ評価を回避する「リスクマネジメント」の観点、双方の観点を含めながら開示を行うために、必要な階層を設けたものです。

分野 項目
人材育成 リーダーシップ、育成、スキル・経験
エンゲージメント
流動性 採用、維持、サクセッション
ダイバーシティ ダイバーシティ、非差別、育児休業
健康・安全 精神的健康、身体的健康、安全
労働慣行 労働慣行、児童労働・強制労働、賃金の公正性、福利厚生、組合との関係
コンプライアンス/倫理

これら項目は上に行くほど「価値向上」が強く、下に行くほど「リスクマネジメント」が強く開示されます。

自社に求められている開示ニーズを把握し、どの項目・事項を選択・開示するかを十分に検討する必要があります。

以下では、それぞれの項目において具体的な開示の内容・方向性をご紹介します。

(1)人材育成

人材育成では、「研修時間」や「研修費用」「研修参加・受講率」やその効果など、リーダーシップや育成、スキルに関する情報開示を行います。

人材育成と社内環境整備の方針とあわせ、測定可能な指標・目標・進捗を整合的に開示する項目です。

(2)エンゲージメント

エンゲージメントとは、社員が労働環境や仕事、ひいては企業に満足しているかといった、社員の働き甲斐・帰属意識について測る項目です。

エンゲージメント測定ツールなどを用いてスコア化し、指標や目標値を具体的に示しながら、エンゲージメント向上を目指していきます。

(3)流動性

流動性とは、採用から定着、離職といった人材の確保について測る項目です。

新規雇用数や採用コスト、定着・離職率、後継者準備率といった、人材の流動に関わる適正度を表すものとして着目されます。

(4)ダイバーシティ

ダイバーシティとは多様性のことを言い、「女性管理職比率」「男女賃金格差」「男性育児休暇取得率」が開示義務化の項目とされています。

このほか、国・性別等の属性別社員比率や育児休業の復職率等によって、ダイバーシティの受け入れ環境があるかが注目されます。

(5)健康・安全

健康・安全では、精神的・肉体的健康と安全について測られます。

労働災害の発生率や安全衛生研修の受講率、医療制度の充実状況など具体的に挙げながら、社員の健康と安全が守られる環境にあるかを示しています。

(6)労働慣行

労働慣行では、賃金の公平性、福利厚生、組合との関係性を開示項目としています。

差別やハラスメントの件数、団体労働協約の社員比率、コンプライアンス違反など、社員との公正な待遇、取引先との適正な取引が行われているかを評価する項目です。

(7)コンプライアンス/倫理

コンプライアンスとは、法令を遵守し、社会的な規範や倫理観に基づいているかを測る項目です。

人権問題・苦情、差別の件数や指導歴、コンプライアンス研修の社員受講率を開示し、具体的にコンプライアンスが守られているか、または取り組んでいるかをデータで示します。

6.人的資本開示のポイント

人的資本開示において、ポイントを踏まえた上で適切に開示を行うことが重要です。

ここでは、その押さえるべきポイントと注意点をご紹介します。

(1)統合的なストーリを持たせる

人的資本開示で開示する内容には、ストーリー性を持たせましょう。

単に手法と結果を述べるだけではなく、自社の経営戦略と、人的資本への投資や人材戦略との関係性、研修やスキルアップに関する取り組み等を、定量的な目標や指標、結果をストーリーと結びつけながら具体的に開示することが重要です。

説得力のある人的資本戦略を、ステークホルダーに伝えることができます。

(2)数値化・データ化して信頼性のある情報にする

自社の情報は積極的に数値化・データ化し、分かりやすく伝えられるようにしましょう。

曖昧な言葉の表現よりも、目標値や実績値を定量化して示すことで、過去と現状そして目標までの差が明確になります

そのため、具体的かつ信頼性の高い情報として、ステークホルダーに提供することが可能です。

(3)投資家目線での情報開示をする

自社の開示する情報は、投資家目線を心がけましょう。

人的資本開示で求められている項目としては前述のとおりですが、どの企業も同じような開示ではなく、各項目に対する情報開示のバランスは企業によって異なります。

自社に求められている情報開示が何なのか、情報を精査し可視化することで、これまで意識して来なかった自社の強みを知ることもあります。

それが企業独自の優位性に繋がり、他社との差別化を図ることができます。

人的資本開示の3つのポイントを一言にまとめると

これら3つを要約すると、「投資家目線を心掛け、説得力のある具体的・信頼性のあるデータを定量的に示しながら、将来的発展へ向けたストーリーの描ける情報開示」が、人的資本開示における重要なポイントだと言えるでしょう。

7.人的資本開示の進め方

それでは具体的にどのように進めていけばよいのでしょうか。

以下に手順をお示しします。

(1)情報を収集・検証する

まずは、新規採用率や離職率、育児休業取得率、有給休暇取得率、研修会参加率などの具体的な数値データを収集、検証を行いましょう。

さらに、例えば社員エンゲージメントを測るツールによって、社員満足度調査などの情報を定期的に収集し、検証を重ねることで、前回比較を行いながら、社員エンゲージメントに関わる変化にもいち早く対応できます。

(2)現状把握と目標を定める

収集した情報で現状を把握したら、次は人材戦略や経営戦略に活かします。

企業が目標達成に向けて行う日々の活動の具体的な行動指標を示す「KPI」を設定しましょう。

目標達成に向けた道筋を設定することで、人的資本を高めるための方向性も明確にすることができます。

(3)社員のエンゲージメントを高める

KPIで目標や目的を策定したら、具体的に取り組んでいきます。

そのとき、社員の反応を見たり意見を取り入れるなどし、社員のエンゲージメントを高めていけると、より効果的です。

決して企業主体にならず、人的資本の考えに基づき、社員を第一に一緒に取り組んでいくという姿勢が大切です。

そうすることで、社員のエンゲージメントも自然と高まることでしょう。

(4)精査しアップデートしていく

取り組みながら、内容を常に精査しアップデートしていくよう心がけましょう。

思うような成果が上がらない場合、目標設定に難があるのかも知れません。

そうした壁に直面した際は、再度KPIに立ち返り、目標設定と行動指標を見直しましょう。

こうした振り返りにはデータが役に立ちます。

そのため、最初に計画を立てた後もデータ収集と検証の手法を検討し続けることで、アップデートする際もスムーズにいくことでしょう。

人的資本開示は早期から専門家と進めるのがおすすめ

人的資本開示は、今はまだ上場企業に限って義務化されたものです。

しかし、開示に際して必要なプロセスは必ずしも上場企業に限ったものではなく、どの企業でも取り組んでいかなければならない要素が多く含まれています。

特に、「社員エンゲージメントを高めること」は、少子高齢化と労働人口減少に直面している日本中のどの企業でも、最重要の課題です。

また、英文開示の必要性も囁かれており、今後国際的な競争社会においては、ますます人的資本開示の重要性は高まっていくことでしょう。

一方で、「人的資本開示をどうやって推進すればいいかわからない」とお悩みではないでしょうか。

MakeCareerでは、ISO30414認定資格を保有するコンサルタントを配置し、人的資本開示に関する支援を行っています。

ISO30414に基づいて人的資本開示を行うことで貴社の人的資本への投資の効率化や採用力の向上、そして企業価値向上に貢献します。

この記事の監修者

監修者画像

キャリアコンサルタント

兵庫 直樹

国家資格キャリアコンサルタント。大手外資系ホテル勤務を経て、15年に亘り、マネジメント業務に従事。 その中で人材関連に興味を持ち、キャリアコンサルタントを取得し人材業界へ。その後、持ち前のコミュニケーション能力と資格を生かし、ハローワークにて就業支援に従事してきた異例の経歴!

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