戦略人事とは?戦略人事の導入事例、成功に必須な要素やポイントを紹介
「戦略人事とは、なんだろう…」
「戦略人事を成功させるコツや実際の事例は、なんだろう…」
このようなお悩みはありませんか?
少子高齢化やリモートワークの広がりなど社会は大きく変化しており、人材確保は企業の中長期的な成長にとって、必要不可欠です。
この記事では、戦略人事とはなにか、成功させるためのコツ、企業の実際の事例を詳しく紹介します。
戦略人事を成功させたいと思っている企業の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.戦略人事とは?
戦略人事とは、企業の理念や経営戦略などの企業の大目標に対して、人材マネジメントを行うことです。
企業の目標を達成するために、社員などの人的資源の育成方針や人事施策を実行するものです。
もともとは、経営学の分野の1つである「戦略的人的資源管理論(Strategic Human Resource Management)」から生まれた概念とされ、欧米企業で実践が進み、その後、日本企業からも注目されるようになりました。
従来の人事は、人事制度の設計や採用活動など、労務管理や日々のオペレーション業務を求められておりました。
対して戦略人事では、従来の業務に加えて、経営目標を達成するための必要不可欠なピースとして、積極的な人事施策の実施が求められます。
役割 | 職務内容 | |
従来の人事 | 採用や人材配置など、人事業務がスムーズに行われるよう支援 | 人事制度設計、採用・育成、勤労管理など |
戦略人事 | 経営戦略を実現するための戦略立案・実施 | 経営戦略に基づいた採用・育成、人事領域での戦略立案と実行 |
このように、人事業務だけでなく、大局的な目をもって、人材の戦略方針を決めるものとなります。
なお、この流れは「人的資本経営」という経営戦略にも関係しており、詳しくはこちらでご紹介しています。
2.戦略人事と人事戦略の違い
戦略人事と混同されやすい言葉として「人事戦略」があります。
「戦略人事」との大きな違いは、企業の経営戦略に対してのかかわり方となっています。
概要 | |
戦略人事 | 経営戦略を実現するため、戦略立案や人材マネジメントを行うこと。 |
人事戦略 | 人事の業務のオペレーションの効率化を図る戦略。
採用や教育などの日々の業務をどのように改善していくかを策定するものです。 |
このように、「戦略人事」は、企業の人事面での課題に対して大局的な戦略を立てるものであり、「人事戦略」は、その戦略人事をもとに日常の業務の効率化を図る戦略といえます。
そのため、「戦略人事」と「人事戦略」はお互いに関係しあっており、より経営の中核として人事を進めるものが「戦略人事」です。
3.戦略人事に必要な4つの要素
戦略人事を実現するには、次の4つの要素が重要であるとしています。
(1)HRBP
「HRBP」とは、経営者や事業責任者のビジネスパートナー(BP)と同じ目線で人事の面からサポートして実現しようとするもので、戦略人事で最も重要です。
「Human Resource Business Partner」の略で、「HRビジネスパートナー」と言われることもあり、「人事」と「ビジネスパートナー」で成り立っています。
主に、各部門からの人材や組織に関する要望を経営戦略の面から検討し、さらに、事業部門でも言語化されていない問題やニーズを考えて解決を目指します。
このように人事の面から各事業部門と連携をとって、人材の確保や育成、組織づくりの観点からビジネスをサポートします。
(2)OD&TD(組織開発&タレント開発)
「OD&TD」とは、「OD(組織開発)」と「TD(タレント開発)」の2つの要素を持っているものとなり、どちらが欠けても機能せず、一緒に進めることが重要です。
概要 | |
OD(組織開発) | 「Organization Development」の頭文字を取ったものであり、組織のあるべき方向や今後ありたい方向へ導く組織開発の機能を指します。
自社の組織が抱えている課題を表面化させ、その課題の原因を組織内の人の関係性や組織同士の関係性から捉え、自社のチーム全体での相互作用をもとに改善を目指すもの。 |
TD(タレント開発) | 「Talent Development」の頭文字を取ったものであり、社員一人一人の知識やスキルなど、組織でなく個人に焦点をあてて解決を図る機能を指します。
ODと異なり、理想の組織を構築するために必要な人材育成を行い、育った人材に活躍してもらうことです。 |
このように、社員一人一人だけでなく、組織全体として戦略を実施することです。
(3)CoE(センターオブエクセレンス)
「CoE」とは、「Center of Excellence」の略で、人事に関わる専門領域に特化したコンサルティング機能のことです。
主にビジネスパートナーをサポートするもので、社内における人的資源の各専門領域において、企画や設計機能の役割を担っています。
例えば、採用活動を例に見ると、以下のような課題に対する具体的な計画を立てることなどが、主な役割です。
- どんな人材を採用すればよいか
- 採用方法はどうすれば一番よいか
- 採用のタイミング
このように「CoE」は、人事にかかわる採用や育成など、さまざまな施策を専門知識を活用して、サポートする要素です。
(4)OPs
「OPs」は、「オペレーション」の略で、人的資源に関する実務の運用管理を効率的かつ効果的に行うことを求められるものです。
CoEなどが各種施策を検討したとしても、実際に運用管理していく機能がないといけません。
オペレーションの戦略を考える「人事戦略」にも繋がる機能であり、自社で完結せずに外注したほうがいいなど、目標に向けたオペレーションを目指します。
4.戦略人事を成功させる4つのポイント
ここでは、戦略人事を成功させるためのポイントについて解説します。
(1)中長期的な経営戦略を明確にする
まずは、経営戦略を明確にしましょう。
戦略人事は、あくまで経営戦略を実現するための手段の一つです。
そのため、自社の中長期的な経営戦略を明確に打ち出し、「どの事業に注力するか」「今後の企業の方針をどうするか」を決めることが重要です。
決定した経営方針にしたがって戦略人事を行いましょう。
(2)戦略人事を導入するタイミングを見極める
経営戦略として、戦略人事に期待する役割を明確にしてから導入しましょう。
HRBPなどの人事のリーダーを設置する前に、本当に必要なのかどうかを担当者と経営陣で検討しましょう。
なぜなら、戦略人事は中長期的に推進していくものであり、途中でやめる場合は、時間や人材を浪費してしまうことに繋がるためです。
中長期的な目線で組織・リーダーづくりに注力していくという考えがある場合は、すぐにHRBPを設置し、戦略人事を推進することをおすすめします。
もしまだどうするか判断に悩む場合であれば、逆に急がないほうがいいと言えます。
(3)戦略人事を推進するチームを編成する
戦略人事を推進するために、戦略人事を推進する組織を編成しましょう。
戦略人事を実行する人は、戦略人事に特化したスペシャリストであり、経営判断をする本部長や役員の相棒となります。
例えば、企業として5年間で売上を120%増加させるという戦略があった場合、お客様が求めるサービスを提供できる人材が自社にいないなどの課題に直面します。
そうした際に、人材育成をどうするか、組織や人事制度をどう編成すればいいかなどの経営課題に近い大きな課題を解決する必要があり、チーム編成は重要です。
企業の規模によってはチームにせずに徐々に規模を拡大したり、戦略人事の設計を外部に任せることも一つの解決策です。
(4)戦略人事を全社で推進する
最後のポイントは、戦略人事の運用を全社で協力して進めることです。
特に重要なことは、経営陣が中長期目線や哲学を持って推進し、「企業成長のために人材に投資する」と強い意志を持って進めることです。
戦略人事は中長期的なプロジェクトとなるため、必ずしも常にうまくいくとは限らず、社内での意見や意思がぶれてしまうことも。
さらに、戦略人事は人事部だけでなく、各事業部門の協力が必須となるため、シャイ内全体での理解と協力が必要不可欠です。
戦略人事の進捗状況や現状把握を行うために、現場との定期的なミーティングで微調整を加えながら、成功に向けて進むことが重要です。
5.戦略人事の企業事例3選
ここでは、戦略人事の企業事例を紹介します。
(1)ソニーグループ株式会社
ソニーグループ株式会社は、「管理する人事から、支援する人事へ」とし、人事面のサポートを行うHRBPを配置しました。
採用や人材育成といった取り組みを各事業のマネージャーと連携して進め、HRBPのメンバーが現場に入り込んで、企業文化を浸透させていっています。
さらに、個を「伸ばす」「活かす」キャリア構築支援を目指し、「社内募集制度」や「社内FA制度」など、社員の自主性を生かす制度を導入しています。
社外キャリア支援プログラムとして、「Re-Creation」と呼ばれる、将来のキャリア作りに向けたスキル向上などの自己投資を支援するなど、多様な人材育成にも力を入れています。
同社執行役専務の安部和志氏代表自ら株主総会やニュース記事等で積極的に発信し、トップダウンでしっかりと意思を示しながら進める事例です。
参考:人事院│ソニーグループにおける人事の取り組み(2022年10月3日)
(2)日立製作所
日立製作所は、投資家向けのESG説明会の中で、社会イノベーション事業(主にサービス事業)をグローバルに提供するために、「人財」が重要と発信しました。
今後国際化していく社会において、国際基準としてもESG投資の重要性は増しており、戦略人事を導入して、企業価値を高めています。
日立製作所は、変化に対応し、「事業」に貢献する“ワールドクラスのHRプロフェッショナル”になる、を目標として掲げ、中長期的な戦略人事を実施しています。
「Workday(人財マネジメント統合プラットフォーム」を導入し、全世界30万人の人財に関する情報をリアルタイムで統合・見える化しています。
また、「CHRO(Chief Human Resource Officer)」と呼ばれる「最高人事責任者」を代表執行役配下に設置し、多様な人財のアサイン・活用を進めています。
グローバルな事例ではありますが、今後国際化していく社会において、戦略人事を導入することは重要な施策の一つです。
参考:株式会社日立製作所「社会価値の創出をけん引する人財戦略」
(3)株式会社カプコン
株式会社カプコンは、2022年に、人材投資戦略の推進を目的として、人事関連組織の再編および最高人事責任者(CHO)の新設、報酬制度の改定を実施しました。
「遊文化をクリエイトする感性開発企業」の経営理念のもと、「中長期にわたる安定成長を実現し、企業価値向上を図るためにコーポレート・ガバナンス体制の持続的な充実に取り組む」こととしております。
そこで、人事関連組織の再編を行い、人事機能を4つの組織に再編しました。
- 開発部門の人事案件にあたる「開発人事部」
- 職場環境の向上や従業員とのコミュニケーション強化に専門的に取り組む「健康経営推進部」
- 「経営企画部人材戦略チーム」
- 「人事業務部」が横断的に連携し、経営層と従業員との意思疎通が直結する体制を構築
このように戦略人事を実行するための組織再編を行い、戦略人事に取り組んでいます。
参考:株式会社カプコン│プレスリリース(持続的な企業価値向上に向け、人材投資戦略を推進)
まとめ
戦略人事は、企業の中長期的な目標を人材面から推進するものです。
人材の流動化、働き方の多様化など、社会が大きくする現代において、良い人材の確保は中長期的な成長にとって至上命題となっています。
一方で、「戦略人事をどうやって推進すればいいかわからない」とお悩みではないでしょうか。
MakeCareerでは、戦略人事などの人材活用の認定資格「ISO30414」の認定資格を保有するコンサルタントを配置し、人的支援に関する支援を行っています。
ISO30414に基づいて人事サポート、人的資本開示を行うことで、貴社の人的資本への投資の効率化や採用力の向上、そして企業価値向上に貢献します。
人的資本経営に関心のある方はぜひ一度ご相談ください。
この記事の監修者
キャリアコンサルタント
兵庫 直樹
国家資格キャリアコンサルタント。大手外資系ホテル勤務を経て、15年に亘り、マネジメント業務に従事。 その中で人材関連に興味を持ち、キャリアコンサルタントを取得し人材業界へ。その後、持ち前のコミュニケーション能力と資格を生かし、ハローワークにて就業支援に従事してきた異例の経歴!